未来のかけらを探して

一章・ウォンテッド・オブ・ジュエル
―12話・町中の賢者様―



ミシディアに来たのは、着いた町が違うがプーレ達にとっては2度目だ。
1度目は、六宝珠の謎を解くため。そして今回は、ここにいるミルザの祖母に会うために。
ただし今回は前回とは違って、港から少し離れたところで船を下りた。
氷の小船ではあまりにも悪目立ちが過ぎる。
また作り直すのも手間だとサファイアが言ったので、
六宝珠も思い切って置き去りにした。
「ここ、この前着た町より大きい町だよね〜。」
「まぁ、一国の首都だからな。」
ロビンとくろっちにとっては初めてとなるミシディア。
しかし、本当のところを言えばロビンにとってはあまり嬉しいものではない。
今は国外追放になったセシル率いる赤い翼が、
ミシディアの水のクリスタルを奪って多数の人々を捕虜にしたからだ。
自分が所属していた陸兵団は手を出していないとはいえ、
ここの住人に言わせれば疎ましい事に変わりはない。
「シュトってなーニ?」
複雑な物思いにふけっていたところに、いきなり思いもよらない質問が飛んでくる。
それくらい基本だろといいかけて、ロビンはパササが動物だった事を思い出した。
「(その国……僕ら風に言えば人間の縄張りの中で一番大きい町のことだよ。
他の町には無い大きな建物とか、城があったりするね。知らなかったのかい?)」
「うん。人間のことはまだまだよくわかんないからぁ〜。」
「ふふっ……。それじゃあ、祖母の自宅に案内しますね。」
黒チョコボと子供の奇妙な会話は、
ミルザの笑顔を誘うのには十分だったようだ。


―ミルザの祖母の家―
リンリンと、涼やかな呼び鈴の音が鳴る。
書き物をしていた老魔道士は、大儀そうに腰を上げて玄関に向かう。
彼女に師事を請うものか、それとも近所の人か。
大体彼女の元に訪れる者といったらそれくらいだ。だが、もし不埒者では困る。
この間のバロンの襲撃があって以来、彼女のみならずミシディアの民はみな来客に敏感になっていた。
「どちらさまかね?」
「おばあちゃん、ミルザです。
お客さんも一緒ですけど、あがっていいですか?」
思わぬ嬉しい客人に目を丸くしながらも、
老魔道士―ミルザの祖母はドアを空けて客人を迎え入れた。
「まぁまぁ、よくこんな遠いところまできたねぇ……。
後ろの方たちは見慣れないけれど、どうしたかしたのかい?」
可愛い孫に目を細めながらも、彼女の後ろにいた見慣れない客人に首をかしげた。
「こちらの方達は旅のお方達で、ここまで私と一緒に来てくれたんです。」
ミルザに紹介され、ロビンとくろっちが軽く会釈した。
「お初にお目にかかります。おれは、元バロン陸兵団隊長のロビンと申します。
今は国外追放の身で、各地をこの黒チョコボのくろっちと旅している途中、
こちらの子供達と共にレムレース村に赴いたしだいです。」
本当はミシディアにバロン人が居るのは疎むべき事だが、
ミルザの祖母はさして気に留めなかった。
目の前にいる青年の目を見れば、悪人か善人かなどすぐに分かる。
「それは道中大変だったでしょう。
さぞお疲れでしょうから、こちらへどうぞかけて下さいね。
すぐにお茶を用意しますから。」
普通の家庭と同様に、ダイニングとキッチンが一体となった部屋。
一行の座るダイニングセットのすぐ横で、ミルザの祖母は慣れた手つきで支度を始めた。
ちょうどお茶でも飲もうと思っていたのだろうか、
もうヤカンが威勢良く湯気を噴き出している。
お茶を入れる前に、お茶請けとなるクッキーが入った皿をテーブルに置く。
「ありがとう、おばあちゃん。」
プーレのはっきりとした礼の言葉を聞いて、
ミルザの祖母はこんなに小さいのによくしつけられていると感じた。
「どういたしまして。ロビンさんは、お子様のしつけが良いですね。」
ガンッと頭の上に金ダライが落ちてきた衝撃がロビンに走った。
勿論本当に落ちてきたわけではないが、ある意味それ以上にショックだ。
まだ20歳なのに。
「いや、その……じょ、ジョーダンですよ、ね?」
「もちろんですよ。その年で、同じ年で違う顔の子3人もいたら大変ですものねぇ。
それじゃあ、とんだ浮気者ですよ。ほほほほ……。」
全く、とんだお茶目な老婦人だ。冗談にも程がある。
ロビンはどこまで嘘でどこから本気なのか本気で悩みそうになった。
「それで、ミルザや。用件はなぁに?」
ロビンとミルザには紅茶を、
プーレ達3人には牛乳を出し終わったミルザの祖母は孫に尋ねた。
「おばあちゃん、その……光の瞬き持ってるよね?」
少々詰まるような、それでも何とかはっきりと聞こえる物言いで祖母に尋ねる。


「えぇ。……何か、村であったんだね。」
「うん……。」
ミルザは、事の一部始終を話した。
謎の呪いを解くための聖水にファルツィ・オーンと名乗った魔物がとりついていて、
そいつが振りまいた瘴気で呪いの症状が悪化し、聖水では効かなくなってしまったという事までを。
「何ていうこと……!ちょっと待っていて。探してくるからね。」
驚いた様子を見せたミルザの祖母だったが、
すぐにリビングを出て光の瞬きを探しに行った。
その間、淹れてもらった飲み物を飲みながらのんびり待つ。
ミルザは探すのを手伝おうと思ったが、勝手にいじるのも良くないと思いなおしてやはり待っている。
「あれ、この本なんだろ?」
ちょうどプーレが座っている席の前に、縦横は小さめに仕立てられた分厚い立派な体裁の本が置いてある。
四隅は金属で補強されていて、表紙は皮だ。
サイズとしては、携帯用の図鑑を少し大きくしたような感じだ。
「読んでみればぁ〜?」
「うん。ん〜……『アイテムの奥儀』だって。
どんなアイテムがのってるのかな?」
ぱらっと適当にページをめくってみると、アイテムのイラストがまず目に入った。
名前はハイポーションもどき。どういう本なのだろう。
よくわからないので、ロビンに渡して読んでもらうことにする。
前書きをさらっと読むなり、ロビンはふぅんとつぶやいた。
「んー、アイテムをいくつか組み合わせて、
その効果を引き出すためのレシピ集みたいだぜ。
目次見たら、前の方に材料に出来るアイテムの事もかいてあるみたいだけどな。
……レシピの初級から後ろ、真っ白だけどな。」
ロビンもよくわかっていないらしく、ぽりぽりと頭をかいている。
しかし、途中から真っ白とはどういうことだろう。
「まっしろ?じゃあ、書いてあるところは?」
「みりゃわかるぜ。ほら、返すから。」
本自体は見た目の割りに軽いが、念のため落とさないように気をつけてプーレに手渡した。
プーレがぱらぱらとレシピの方をめくると、初級の最初のページを見つけた。
ついでにちらりと後ろの方をめくってみると、本当に真っ白だ。
「えーっと、毒消しポーション?」
そのレシピを見ると、文字通りポーションと毒消しを混ぜた代物だった。
割合はポーション一つに毒消し5粒。分かりやすい量だ。
作る手順も簡単で、あらかじめ粉にした毒消しを混ぜるだけ。
作っておくタイミングとしては、休憩中とのこと。潰したのを混ぜるだけなら他でも良いらしい。
パササとエルンは種族的特徴で一切毒が効かないから心配要らないが、
他のメンバーには良いかも知れない。
「となりはナニー?」
「(氷爆弾って書いてあるね。)」
材料はボムのかけらを一欠けと南極の風。
作り方は、これを一緒の袋に入れて投げるだけ。
すると、同時に爆発して相手を吹き飛ばす。
この時の爆発は強烈で、いつもの3倍の威力で相手に攻撃できるらしい。
他にも色々、初級とはいいながらなかなか便利そうな組み合わせが載っていた。
ちょうど読み進めていたときに、ミルザの祖母が戻ってきた。
慌てて本を閉じる。
ミルザの祖母は、手に何かきれいな布の包みを持っていた。
「あ、見つかったのね。おばあちゃん。」
「ええ。ちょっとてこずったけど、普段から棚は整理するようにしてるからねぇ。
何とか早く見つけられたのよ。」
日頃から整理整頓していると聞いて、くろっちは感心した。
使いたい時に物が無いジレンマは、主人のせいで何度も体験している。
挙句、物をなくした事も数え切れないほどだ。
こんな風にすぐに見つかる部屋がうらやましい。
「その包みの中身が、光の瞬きってやつですか?」
「そうですよ。見てみますか?」
サラリと絹がこすれる涼やかな音がして、
大切そうに折りたたまれた布の包みが開かれた。
布の隙間から外を覗き込むように現れた光の瞬きは、
ぱっと見ると金で出来たワッペンのようだった。
「わ〜、かっこいいネ〜!」
「すご〜い、ぴかぴかしてるぅ♪」
六宝珠ほどではないが、大きな宝石がついた光り物に興味深々だ。
カラスでなくとも、光り物を好む生き物はいるらしい。
まぁ、そうでなければパササがルビーを拾う事もなかっただろう。
「きれいでしょう。それだけではなくて、とても価値があるものですからね。」
「世界に何個かしかないんだよね?」
来る前に聞いた知識を、ミルザの祖母に改めて聞いてみる。
「そう。その代わり、どんな呪いでも解けますけど。」
どんな呪いでも。と、聞いてプーレ達の頭にある考えが浮かんだ。
―これを使えば、元に戻れるかも?!
短絡的といえば短絡的だが、
どんな呪いでも解けるとうたっている以上そう思ってもいいだろう。
「けれど、一度に解ける呪いの種類は一つだけ。
それに一度使ってしまったら、次に使うためには1年以上光の力をためなければいけません。」
『が〜ん……・。』
即座にのしかかってきた現実は、タイタンの体重よりも重い。
「ずいぶん充填に時間がかかるんですね。」
再使用には1年かかると聞いて、さすがにロビンもため息交じりだ。
「ええ。この世界は光の力があまりありませんので……仕方ないのですよ。」
色々な属性が散りばめられている地界は、
天界や魔界と違って一つの属性に突出していない。
だから光の力が少なくて、光の瞬きの充填には時間がかかるのだ。
「(ともかく、これを持っていかないと。)」
そうだ。今回は元の姿に戻るのはあきらめて、
まずは苦しむレムレースの村人を助けなければ。
「そーだねぇ〜。」
出来れば元に戻るまでに何ヶ月も時間はかけたくないが、チャンスはそのうちまた来る。
プーレ達は、そう思って自分をあっさり納得させた。
「じゃ、ちょっと早いかもしれないんですけど、
これで失礼させていただいてもいいですか?」
いつの間にかお茶を飲み干していたロビンが、荷物を持って席を立った。
プーレ達もそれを見てするりと席から降りる。
「あら、こんなに早く?」
ミルザの祖母が残念そうに言った。
「おばあちゃん……。」
たしかにそうだが、今はそんな場合ではない。
ミルザが複雑そうな表情で暗に語る。
「分かっているよ、ミルザ。今度落ち着いたら、ゆっくりしていっておくれ。」
可愛い孫娘の頭をなでてやってから、ふとプーレ達のほうにミルザの祖母は視線を移した。
視線の先にあるのは、プーレが持っている分厚い本。
「おや、それが気に入ったのかい?」
「あ、これは……。」
思わず恥ずかしくなって声が小さくなった。
間違って持って行きそうになっただけだという前に、
ミルザの祖母はニコニコしてこういった。
「持っていっても大丈夫よ。
もうおばあちゃんは、その本が必要ないからねぇ。」
「いらないのぉ?」
エルンが不思議そうに首をかしげた。
「ええ。もう、必要な分は移してしまったから。
これはアイテム士っていう、アイテムの扱いに詳しい人たちが使う本でね、
名前はアイテムの奥儀って言うの。
あなたたちみたいな小さい子でも、簡単に出来るものがあるから試してご覧なさい。
それに、アイテム図鑑の代わりにもなるから便利よ。」
アイテム士という聞き慣れないジョブに首をひねりながらも、
とりあえずこの本が便利そうだという事は先ほど読んだので分かる。
くれるならぜひとももらっておきたい。
「ありがとうおばあちゃん!
あ、そうだ。これ、だれが使う?」
思わぬもらい物に機嫌をよくしてから、ふと思いつく。
この中の誰かを、アイテム士もどきにしてしまおうという事だ。
「じゃあさ〜、プーレがやってみれバ?」
「ぼくが?」
パササの即答に、逆に話を振られた本人はちょっと驚いたように自分を指差す。
「いいと思うぜ。俺はがさつだからそーいうのは苦手だし、
それによく考えたら、このパーティ回復係が一人もいないんだよな。
ミルザちゃんは別にしてよ。」
ああ、言われて見ればと3人は思った。
魔法は珍しい古魔法の使い手であるパササがいるが、
3つ習得しているという系統はどれも攻撃系。ついでに言えば戦闘中は滅多に使わない。
エルンは歌を歌って様々な効果をもたらす事が出来るらしいが、
今までにその手の歌を歌ったことはない気がする。
先日の聴覚殺し・破滅の歌は別だが。
「それもそうだね。じゃあ、ぼくがんばってみる。」
二つのアイテムを持って、一行は再び氷の小船の元に行った。
今度は一国も早く来た道を戻るために。
帰った頃、六宝珠が体重の事でけんかをしていたのはまた別の話。



―前へ―  ―次へ―  ―戻る―

ミルザのおばあちゃんはちょっとお茶目です。
お年寄りの余裕で、(?)ちょっとロビンをからかっていただきました。
こういう年齢構成のパーティだからできる事です(笑
ついでに貴重品の管理を間違ってますねこいつら。
今回かかった日数は一ヶ月以上……やっぱり遅いです。いっそ締め切りでも決めようかなぁ……。
ところでこれをアップするときに、ここまでの話を章別に分けました。
(2004年8/20・×アイテム大全→○アイテムの奥儀に訂正)